ナノ構造情報のフロンティア開拓 - 材料科学の新展開

MENU

研究紹介
新材料開発への貢献

本領域では、ナノ材料科学のフロンティア開拓とナノ構造情報の活用という目的のもとで、1つの研究グループだけでは達成が困難な材料課題への挑戦を進めてきました。研究が総花的とならないための工夫として、領域メンバーが重点的に推進する具体的な材料開発をターゲットとして設定し、これをコモンサブジェクト (CS) 課題と名づけて各領域メンバーが強く意識して研究を進めました。具体的には、①機能性セラミックス材料、②固体イオニクス材料、③触媒材料の3つです。それぞれの分野で活躍しているエキスパートである計画研究代表者の明確なモチベーションのもと、各課題でナノ構造解析の実験と理論計算を行い、情報科学手法を採り入れた解析を行いました。材料創製においては、通常プロセスのほかに、高圧・高温プロセスや原子層制御のエキスパートも計画研究代表者として貢献しました。

これらの連携研究の結果、新材料開発に貢献できただけでなく、新材料開発に必要となる学理構築に大きな成果を上げることができました。

担持金属触媒における活性序列の予測と最適化

担持金属触媒において、金属のd-バンド中心は、分子吸着エネルギーや触媒活性の序列を記述する良い指標となることが知られています。しかし実験的に求めるのは容易ではなく、通常は理論計算(DFT計算)によりその値を求めます。高活性触媒材料の高速探索という観点において、種々の金属や合金系に対して網羅的にd-バンド中心の計算を行うことは、多くの計算・時間コストが必要となるため、効率的な方法とはいえません。

そこで本領域では、NørskovらがDFT計算によって得た、121種類の金属・合金のd-バンド中心の値に関して、各金属の周期表における族や密度、イオン化エネルギー等の入手容易なパラメータを説明変数(記述子)とした回帰モデルの構築と機械学習による高速予測を試みました。その結果、個々の値をすべてDFT計算により求めた場合と比べて、遥かに高速での算出(予測)が高い精度で可能であることを実証しました。

本手法を応用すれば、理論計算により求めた一部の金属・合金のd-バンド中心の値を用いて、他のさまざまな金属・合金系のd-バンド中心を予測し、活性序列に関する情報や最大活性を示す材料の候補をいち早く見つけることが可能になると期待できます。

I. Takigawa et al. RSC. Adv. 6 (2016) 52587.

多結晶アルミナの粒界特性を利用した物質移動制御


アルミナ(バルク、Σ 31 粒界)の状態密度

多結晶アルミナ膜断面の表面近傍の酸素トレーサー(18O)の
SIMS マップ(1600℃x1h)

高温の腐食環境下に曝される構造部材の長寿命化を図るためには、部材の表面を守る保護膜が不可欠です。たとえば、多結晶アルミナは航空機エンジン等の燃焼ガス環境下で使用される耐熱部材の保護膜として使われます。保護膜性能をさらに向上させるには、膜中の結晶粒界(高速拡散経路)を介した物質移動の本質を理解し、その動きを精密制御することが極めて重要です。

本領域では、モデル膜としてアルミナ焼結体から切り出した多結晶ウェハや双晶ウェハを用いて、高温酸素透過試験を実施し、酸素ポテンシャル勾配(dμO)下における膜中の物質移動機構を評価・解析しました。また、第一原理計算や電子エネルギー損失分光(EELS)を用いて双晶粒界の電子状態や欠陥形成エネルギー等を評価・解析し、計算と実験の両面から粒界構造と物質移動の相関解明に取り組みました。その結果、多結晶粒界のような整合性の低い粒界では半導体的な特性が増すとともに、そのような粒界における電子状態変化が酸素拡散の起源であることを明らかにしました。また、高温dμO下に曝された膜中の酸素の粒界拡散係数が自己拡散(dμO無し)の場合に比べて約1/10に低下することを発見しました。これは、膜の電子伝導性の寄与が増大した結果と捉えられます。さらに、この特性を利用することで、電気伝導特性の大きく異なる酸化物からなる多相積層膜中の物質移動を効果的に制御できることを見出しました。

本研究は、アルミナをはじめとする保護膜性能の向上を展望するものです。

T. Ogawa et al. Acta Mater. 69 (2014) 365.

純粋なヒドリド導電性酸水素化物材料の創製


Ti/La-Sr-Li-H-O系電解質/TiH2の放電曲線

La-Sr-Li-H-O系ヒドリドイオン導電体の構造図

固体内をイオンが高速で拡散する物質はイオン導電体とよばれ、リチウム電池や燃料電池など電気化学デバイスへの応用が期待できます。とくに電子を流さず、イオンのみが拡散する材料は固体電解質として機能します。新しいイオンが拡散する固体電解質を開発できると、新たな電気化学反応を利用したデバイスの創出が可能になります。

本領域では、水素のアニオンであるヒドリドイオンに着目し、ヒドリドイオンだけが固体内を拡散するLa-Sr-Li-H-O系の酸水素化物を発見しました。酸水素化物中における純粋なヒドリドイオン導電はこれまでに報告がなく、固体化学の新しい分野を開拓することができました。この材料はK2NiF4型の結晶構造を有し、組成を制御することでイオン導電率が向上することが明らかになりました。また、Ti/La-Sr-Li-H-O系電解質/TiH2からなる全固体型のデバイスを作製し、300℃で放電させた結果、Ti電極の(脱)水素化反応に対応する電位応答と構造変化が確認され、ヒドリドイオンを電荷担体とした電気化学デバイスの作動に成功しました。

ヒドリドイオンの酸化還元電位は–2.25V(vs . SHE)であるため、電極や触媒の開発を進めることで、将来的に高エネルギー密度な電気化学デバイスが実現することが期待できます。

G. Kobayashi et al. Science 351 (2016) 1314.

酸化物二次元電子系熱電材料の創製

廃熱を再資源化するための技術として熱電変換が注目されていますが、現在の熱電材料は高価で、熱・化学的安定性に乏しく、毒性があるために大規模な実用化ができずにいます。金属酸化物は魅力的な熱電材料候補ですが、熱電特性が非常に低いという問題があります。

本領域では、酸化物二次元電子系人工超格子における二次元性を高めることで、熱電特性の大幅な向上を目指しました。まず、SrTiO3 - SrNbO3固溶体の熱電特性を実験・計算から調査し、ド・ブロイ波長がTi/Nb=1/2を境に大きく異なることを見出しました。また、バンド計算により、[1 uc SrNbO3|10 uc SrTiO3] 人工超格子においても二次元性が維持されることを見出しました。ついで、パルスレーザー堆積法により実際に数多くの人工超格子を作製し、熱電特性を調べた結果、バルクの2倍に相当する5mW m−1 K−2の出力因子を達成しました。

これは、二次元性を高めることが熱電材料の高性能化に有効であることを明確に示した初めての結果です。

Y. Zhang et al. J. Appl. Phys. 121 (2017)185102.