About ESISM 京都大学 構造材料元素戦略研究拠点
京都で元暦の大地震ほかの大災害を経験した鴨長明が,この世の無常と儚さを方丈記に書き連ねたのは,ちょうど800年前の1212年です.しかし,科学技術の発達した現代であっても,社会システムが大自然の猛威の前に脆弱であることを,大震災と原発事故を通して私たちは思い知らされました.いまや巷間では,科学技術への不信感さえ喧伝されています.科学技術を復権し,それをわが国の新しい成長戦略に組み込むためには,私たちの生活を支えている社会インフラや工業製品の信頼性を科学技術の力でしっかりと担保することが重要です.そのためには,高層建築物や長大橋梁のような巨大構造物,自動車,航空機などの輸送用機器に用いる狭義の構造材料だけでなく,医療,通信,エネルギー変換・貯蔵,環境保全など,あらゆる分野で利用する実用材料に対して,定常的な使用条件下に対してはもとより,突発的な擾乱によって生じる応力場,電場,磁場,化学反応場に対する力学応答,すなわち「変形と破壊」の現象を正しく理解し,それを設計寿命まで的確に制御することが求められます.このような広義の構造材料は,社会システム全般の安定に深く関わっているのです.
構造材料にとっては,まず「強さ」と「ねばさ」を両立させることが,本質的に重要です.変形への抵抗である「強さ」(強度)は部材の小型化・軽量化を可能とし,破壊への抵抗である「ねばさ」(延性,靱性)は,部材の信頼性を向上させます.しかしながら,一般に「強さ」と「ねばさ」は,トレードオフの関係にあります.強いものは脆く,ねばいものは弱い.この固定概念を打破し,「強さ」と「ねばさ」を具備する「究極の特性」へのブレーク・スルーを,希少元素の添加によるのではなく,電子,原子のスケールからマイクロメートルに及ぶ組織制御によって達成すること.そのために構造材料のフロンティアを,電子論と最先端の計測技法という新しいツールを駆使して開拓すること.これらの課題に真摯に取り組むために,本構造材料元素戦略研究拠点は2012年6月に活動を開始しました.
本拠点のミッションは,徹底的な基礎研究を通して,学問の深化や新しい概念の構築に貢献すること.その成果の産業応用への展開に貢献すること.そして,わが国の持続的発展のために,次世代を担う強力な若手人材を育成することの3点です.これらを達成するには,拠点メンバーの努力だけでなく,広く社会との意見交換,情報交換,そして国内外との人的交流が不可欠だと考えております.皆様のご理解とご支援,そして忌憚のないご意見を期待しております.